V-22オスプレイの出自に関する少し興味深い話

The Dream Machine: The Untold History of the Notorious V-22 Osprey

The Dream Machine: The Untold History of the Notorious V-22 Osprey


いま世間を騒がせている話題の軍用機オスプレイについて書かれた本を読んでいたら興味深い記述があったので引用する。

The engineers already had a conceptual design for a tiltrotor about the size of the XV-15, just large enough to hold twelve troops. They wanted marketing to sell that. Dick Spivey told them the Marines didn't care what engineers wanted. The Marines wanted an aircraft that could carry twenty-four troops. Given the limited number of amphibious assault ships in the fleet, the Marines felt they needed an aircraft that size to get enough troops ashore quickly enough in a standard assault. Besides, if they agreed to buy an aircraft that held only twelve troops, others in the Pentagon would surely force them to buy Sikorsky's UH-60 Black Hawk helicopter. The Black Hawk was just that size, already flown by the Army, and would be cheaper than a tiltrotor. After years of cultivating the Marines, Spivey also thought they were loath to buy the same helicopters as the Army because "the more they got like the Army, the more likely they were to be absorbed into the Army."*1

XV-15というのはオスプレイ以前に同機の最大の特徴となっているティルトローター機構について実証を行うために開発された実験機で、ベル社の技術陣はオスプレイを12人の兵士を搭載可能な機体として開発すればXV-15と同じような大きさになるので都合がいいと考えていたのだけど顧客である海兵隊がその倍にあたる24人搭載可能な機体を要望したのでオスプレイは24人搭載可能な機体として開発されることになったという話になっている。
ここでは海兵隊が24人搭載可能な機体を要望した理由とされる事柄が2つあげられていて、ひとつは揚陸艦の数が限られた中で十分な数の兵員を素早く上陸させるためというもので、これはまっとうな理由のように思える。面白いのはもうひとつのほうで、12人搭載可能な機体としては既に陸軍が安価なUH-60を持っていたので、同じような大きさの機体を新しく開発しようとすると代わりにUH-60を使えという横やりが国防総省から入ってきかねないからというもの。しかもさらに面白いことには、海兵隊が陸軍と同じ装備を採用してしまうと海兵隊を独立させておく理由がさらにひとつなくなってしまい、海兵隊を陸軍の下に組み込む口実として利用されてしまうのではないかという懸念も海兵隊側にはあったのだという。
顧客の側の政治的な都合で技術者の合理的な判断が覆されてしまうというのが最近よく見る炎上IT案件の物語にも通じるところがあって面白い。結局、ここで無理して2倍の能力を持つ機体を作ることになったせいで色々と技術的に無理をする羽目になったりしているので技術陣に同情せずにはいられない。その他にも色々な理由で死者が出る事故が起こったり、米国内で猛烈なバッシングにあったりしていて、さらに最近では極東の島国でもバッシングにあったりしていてつくづく不幸な運命を背負った機体なのだなと思う。
この本の結びは軍用機としてオスプレイが成功することで民間機としてもティルトローターの技術を利用する可能性が開けるのではないかという希望を残すものではあるのだけど、それはベル社はじめ航空業界の人たちの都合であって岩国や普天間の人たちには関係ない話だよなという気もする。
私も趣味的にはティルトローター機が飛び回る未来を見てみたいしオスプレイにはそれなりに頑張ってもらいたいとは思うのだけど、国家の安全保障だとか航空技術の未来だとかいった話が基地周辺の人たちの直近の未来になにか利益をもたらすかというとそういうわけではない。都会に住むわれわれがいくらオスプレイが安全だというデータを示したところで事故が起こったとき実際に被害を受けるのはその地方の人たちなわけで、ここで反対しない理由が彼らにはないし、それを不合理な感情論だと笑うのは他人を虐げることに対して少々鈍感がすぎるように思う。

*1:Location 2138, Kindle Edition