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「魔法少女まどか☆マギカ」第9話までのまどかを惨めにさせているのは第10話のまどか


「まどかマギカ」第10話において明らかにされたほむらの行動を支える原理、その真意とは時を遡る前の時点でのまどかの願いを叶えること、遡った先の時点でのまどかによるキュウべぇとの契約を阻止することであった。また、まどかが魔女になることでキュウべぇが地球で達成しようとしていた目標に足りるだけのエネルギーが得られるということも同時に明らかにされた。つまり、ここで対立しているのはほむらとキュウべぇであり、争点はまどかがキュウべぇと契約を交わすかどうかである。まどかが魔法少女になることを選べばキュウべぇの勝利であるし、そうしなければほむらの勝利となる。両者の間に妥協の余地はない。

「私にはできなくて、ほむらちゃんにできること、お願いしたいから。ほむらちゃん、過去に戻れるんだよね。こんな終わり方にならないように、歴史を変えられるって言ってたよね」
「うん」
「キュウべぇに騙される前の馬鹿な私を、助けてあげてくれないかな?」
「約束するわ、絶対にあなたを救ってみせる。何度繰り返すことになっても、必ずあなたを守ってみせる」

魔法少女まどか☆マギカ第10話 「もう誰にも頼らない」

「まぁ、後は君たち人類の問題だ。僕らのエネルギー回収ノルマは、おおむね達成できたしね」

魔法少女まどか☆マギカ第10話 「もう誰にも頼らない」

ところで、ここで興味を引くのは争いの焦点となっている当の人物、第9話までの物語の主人公である魔法少女になることをまだ選んでいないまどかの存在感のなさである。第10話の各場面で描かれる、魔法少女としていきいきと活躍し、魔女になることを防ぐため自らのソウルジェムの破壊を願うような勇敢さを見せつけ、転校生であるほむらに対する優しい気づかいも示すまどかの輝かしい姿と比べると、状況に翻弄され少女たちの死に戸惑い悲嘆にくれる第9話までのまどかの姿はあまりに弱々しく惨めに見える。
第9話までのまどかがこのような惨めな姿を視聴者に晒しているのは、ひとえに彼女が魔法少女にならなかったからである。魔法少女としては最強と言われるその素質も、現在のところキュウべぇと契約し魔法少女になる以外の方法で活用する手段が存在するとは思えないのであるから、まどかは魔法少女にならない限り状況に対して自らの意思を示し行動することはできず惨めな姿を晒し続けることになるはずだと考えるのが自然である。つまり、ほむらが第10話のまどかと交わした約束を守ろうとし続ける限り、第9話までのまどかは惨めであり続けるのである。

第10話でほむらに願いを託したまどかは、強大な魔女であるワルプルギスの夜から世界を守りぬいた上で魔女になり世界を滅ぼしてしまうことを防ぐため自らのソウルジェムの破壊を望むという自己犠牲に溢れた英雄的な振る舞いをみせる。その上で彼女はほむらに、遡った先の時点のまどかが魔法少女になることを防ぐよう依頼するのである。ここで起こっているのは、十分に輝かしい人生を送った人間による自分が選ぶことができたかもしれない別の可能性の過去の自分への押し付けであり、その結果として生じた惨めで平凡な人生である。たとえ同じ身体と同じ名前に加えてある時点までの同じ記憶を持っていたとしても、第10話でほむらに願いを託したまどかと第9話まで惨めさを晒し続けてきたまどかとは別人なのである。
だから、この物語の行く末に第9話までのまどかが何らかの形で影響を及ぼそうとするのであれば第一に必要となるのはほむらへの反抗であろうし、ひいては自らは魔法少女として英雄的に生きることを選んでおきながら遡った時点での自分に対して平凡な生を押し付ける第10話のまどかの影響からの脱却が図られなければならないだろう。現状ではほむらの行いは第9話までのまどか自らの意思による魔法少女になろうという決断をことごとく踏みにじるものであるし、ほむらからまどかへの親愛の情の表明も一方的な空回りに終わっている。まどかが惨めさから脱するためにまず立ち向かわなければならないものは魔女でもキュウべぇでもなく、状況に対して能動的に働きかけようとする意思に基づいたまどかの行動のすべてを妨害するほむらの意思であり第10話のまどかの願いなのである。