女の子なんてどこにもいない

流行り病で女の子が根こそぎいなくなってしまってから、もう何百年か経ったのだそうだ。
女の子がいなくなってしまう前の世の中を僕は知らない。僕を産んだのは合成ペプチドで出来た人工子宮だ。
灰色の都市、街を外敵から守る眠らない自動機械たち、人間へ奉仕する有機ロボットたち、市街の外に広がる荒野。生まれてからこれまでずっと僕が見てきた景色。そしてきっと、死ぬまで同じ。
今日も僕は灰色の街を歩く。特にすることがあるわけじゃない。街の防衛や工業製品の生産を行っているのは機械たちだし、サービス業は有機ロボットたちの仕事だ。僕ら人間の仕事は、この変化のない街で生き続けて死なずにいること。この街は僕らを退屈させずに生かしておくためだけに動いている。
劇場に行けばプラスチックの骨格にペプチドの肉を纏った有機ロボットのアイドルたちが歌い踊っているのが見られる。キラキラした衣装を身に纏って機敏に舞ってみせるそれは、かつて実在したアイドルの精密な再現なのだそうだ。
僕の家にも女の子の形をした有機ロボットがいる。僕の望みを叶えることを至上命題として刷り込まれている彼女は、僕の欲望を何度でも受け止めてくれるし、望みさえすれば人工子宮で子供さえ産んでくれる。
それでも、僕は本物の女の子を一度だって見たことがないし、これからも見ることはできない。そして兵士にも職人にも商人にもなれないまま、僕はただ死ななかったと言うだけの理由で年を重ねていくんだろう。
出来ることなら兵士になりたかった。自動機械が今ほど発達していなくて、手を伸ばせばそこに女の子がいるような時代に生まれたかった。女の子を守るためだけに自分の存在を賭けるような生き方ができただなんて、昔の男たちはどれだけ幸せだったことだろう。
そんなことを街の男たちに一度だけ話したことがあるが、笑われてしまった。働く必要もなく飢えることもない、そのうえ娯楽にも不自由しないのに何が楽しくて命なんか賭けなきゃいけないんだ。そう言われた。何も言えなかった。
気がつくと、ずっと歩きっぱなしだったせいか街のはずれに来ていた。もう日が暮れようとしている。街の外は何もない赤茶けた荒野で、道だけが続いているけれどその先には何もないと幼いころから教えられていた。
だだっ広い景色の中で、道の両脇に設置された2基の自動機銃だけが微動だにせず空を睨んでいる。外敵から街を守るために設置されたというそれが、何から街を守るために設置されたものなのか、この町ではもう誰も覚えていない。